ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムは、企業の基幹業務(会計、販売、購買、在庫、生産など)を統合管理し、経営の見える化や業務効率化を実現する強力なツールです。
中小企業がERP導入を成功させるためには、以下の6つのステップを着実に踏むことが不可欠です。
■ ERP導入の全体像・6つのステップ
- 1. 導入企画・準備フェーズ
- 目的、目標、体制、予算の土台固め
2. 要件定義・ベンダー選定フェーズ
必要な機能と最適なパートナーの選定
3. システム設計・開発(カスタマイズ)フェーズ
システムの設定と構築
4. テスト・データ移行フェーズ
正しく動作するか検証し、データの移し替え
5. トレーニング・本稼働(Go-Live)フェーズ
教育と新システムでの業務開始
6. 運用保守・改善フェーズ
安定稼働と継続的な改善(PDCA)
ERP導入は、大きく以下の6つのステップで進められます。
各ステップを着実に進めることが、導入成功の鍵となります。
【目次】
ERP導入の全体像:6つのステップ
- ステップ1:導入企画・準備フェーズ
ステップ2:要件定義・ベンダー選定フェーズ
ステップ3:システム設計・開発(カスタマイズ)フェーズ
ステップ4:テスト・データ移行フェーズ
ステップ5:トレーニング・本稼働(Go-Live)フェーズ
ステップ6:運用保守・改善フェーズ
まとめ
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「そろそろExcel管理から脱却したい」「部門間の情報共有をもっとスムーズにしたい」といった課題から、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムの導入を検討し始めた中小企業の経営者やIT担当者の皆様、こんにちは。
この記事では、「ERPって良さそうだけど、具体的にどうやって導入するの?」という疑問をお持ちの方向けに、ERP導入の全体像と具体的なステップ、そして各段階で押さえるべきポイントを、中小企業のITコンサルとしてERP導入プロジェクトの実績を持つmaruttoが、中小企業の視点から分かりやすく解説します。
計画段階から運用・保守まで、各段階で何を考え、何に注意すべきかを把握することで、ERP導入のイメージが明確になり、スムーズな導入への第一歩を踏み出せるでしょう。
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それでは、各ステップを詳しく見ていきましょう。
ステップ1:導入企画・準備フェーズ
- 「なぜERPを導入するのか?」を明確にし、プロジェクトの目的、目標、体制、予算などの土台を固める、最も重要な最初のステップです。 ここでの検討が不十分だと、後々のステップで方向性がぶれたり、プロジェクトが迷走したりする原因 となります。
- ▼ 具体的な作業
- 1. 導入目的の明確化
現状の課題(例:部門間の連携不足、情報共有の遅れ、手作業によるミス、煩雑な集計作業等)を洗い出し、ERP導入によって解決したいこと、達成したい具体的な目標(売上向上、コスト削減、業務効率化など)を定義します。
測定可能な目標(KPI)を設定できると理想的です。
2. 経営層のコミットメント獲得
ERP導入は全社的な取り組みです。社長をはじめとする経営層が導入の必要性を理解し、リーダーシップを発揮することが不可欠です。
3. プロジェクト体制の構築
社内の各部門から担当者を選び、プロジェクトチームを結成します。特に、実際にシステムを利用する現場の担当者を巻き込むことが重要です。
プロジェクトリーダーを任命し、責任の所在を明確にします。
4. 導入範囲の検討
まずどの業務範囲にERPを導入するのかを検討します。全社一括導入だけでなく、スモールスタートも有効な選択肢です。
5. 予算・スケジュールの策定
導入にかかる費用(ソフトウェア費用、導入支援費用、カスタマイズ費用、教育費用など)と、完了までの大まかなスケジュールを計画します。
▼ 中小企業が押さえるべきポイント・注意点
- ー 経営層の理解とコミットメント
- 経営層が「なぜ導入するのか」を深く理解し、プロジェクトを積極的に推進する姿勢を示すことが成功の前提です。
- ー 目的は具体的に
- 「この課題を解決するため」という具体的な目的意識を持ちましょう。「なんとなく良さそうだから」では失敗します。
- ー 現場の声の収集
- 実際にシステムを利用する現場の担当者の意見を丁寧にヒアリングし、現状の課題や要望を正確に把握することが重要です。机上の空論にしないためです。
- ー リソースの確保
- プロジェクト担当者は通常業務と兼務するようになることが多いです。プロジェクトに集中できる時間や権限を確保する配慮が必要です。
- ー スモールスタート
- 最初から完璧を目指さず、自社の体力に合った現実的な計画を立てましょう。段階的な導入も有効な手段です。
ステップ2:要件定義・ベンダー選定フェーズ
導入するERPシステムに「何をさせるのか(=要件)」を具体的に定義し、その要件を満たす最適なERPパッケージソフトウェアと、導入を成功に導くための信頼できるパートナー(=ベンダー)を選定するステップです。
▼ 具体的な作業
- 1. 現状業務(As-Is)の分析と新業務(To-Be)の設計
- 現在の業務プロセスを可視化し、ERP導入後の理想的な業務プロセスを描きます。
- 2. 要件定義
- 新業務プロセスを実現するために必要なシステム機能を具体的にリストアップし、優先順位をつけます。
- 3. 情報収集と比較検討
- 複数のERPパッケージやベンダーについて、機能、価格、実績、サポート体制などを比較検討します。中小企業向け、特定の業種向けなどのERPも視野に入れましょう。
- 4. 提案依頼(RFP)とデモンストレーション
- 候補となるベンダー数社に、自社の要件を伝えて提案を依頼(RFP作成)し、提出された提案書を評価します。
- デモンストレーションを依頼し、実際の画面や操作感、自社業務への適合性を確認します。
- 5. ベンダー選定と契約
- 機能、価格、実績、サポート体制、担当者との相性などを総合的に評価し、最適なパートナーを選定して契約します。
▼ 中小企業が押さえるべきポイント・注意点
ー 現在だけでなく将来性も考慮
現在の要件を満たすだけでなく、将来的な事業拡大や業務変化にも対応できる拡張性を持つかどうかも検討しましょう。
ー 標準機能を活かす意識
カスタマイズは費用と時間を増加させます。できるだけERPの標準機能に合わせて業務プロセスを見直す「Fit to Standard」の考え方を持ちましょう。
ー サポート体制の確認
導入時だけでなく、導入後のサポート体制や保守サービスの内容(対応時間、範囲、費用など)を契約前にしっかりと確認しておくことが重要です。
ー ベンダーとのコミュニケーション
ベンダーは導入プロジェクトを成功させるための重要なパートナーです。自社の要望や疑問点をしっかりと伝え、信頼関係を築ける相手を選びましょう。中小企業の導入実績が豊富かどうかもポイントです。
ー 背伸びしすぎない
自社の規模や業務内容、予算に合ったERPを選びましょう。初期費用だけでなく、ランニングコストも含めて考えることが重要です。
ステップ3:システム設計・開発(カスタマイズ)フェーズ
選定したERPパッケージを、ステップ2で作成した自社の要件定義に基づいて、システム上で具体的に設定し、構築していくステップです。 標準機能で不足する部分はカスタマイズ開発も行います。
ベンダーと協力して、要件を実際のシステムに落とし込んでいきます。
▼ 具体的な作業
- 1. Fit & Gap分析
- 自社の要件(ステップ2で定義したもの)と、導入するERPの標準機能との差分(Gap)を詳細に分析し、対応方針(設定変更、業務運用でカバー、カスタマイズ)を決定します。
- 2. 要件定義の詳細化とシステム設計
- ベンダーと共に各業務の詳細な要件を詰め、システムの具体的な構成や機能、データ連携などを設計します。
- 3. パラメータ設定
- ERPの動作を決める様々な設定(コード体系、承認フローなど)を行います。
- 4. カスタマイズ・アドオン開発(必要な場合)
- 標準機能で対応できない要件がある場合、追加のプログラム開発を行います。
- 5. データ移行計画策定・環境構築
- 既存システムからのデータ移行計画を具体化し、ERPが稼働するインフラ環境を準備します。
▼ 中小企業が押さえるべきポイント・注意点
- ー 現場担当者の積極的な参加
- 設計段階から実際にシステムを利用する現場担当者が積極的に参加し、意見を反映させることで、使いやすく業務に合ったシステムになります。
- ー 安易なカスタマイズは避ける
- カスタマイズは費用・期間の増加、将来のバージョンアップ時の障害となりがちです。「本当に必要か?」を慎重に検討し、可能な限り標準機能の活用や業務プロセスの見直しで対応できないか考えましょう。
- ー テスト計画の早期策定
- 品質の高いシステムを構築するために、この段階からテスト計画を具体的に立てておくことが望ましいです。
- ー 進捗確認と認識合わせ
- 自社業務を最もよく理解しているのはあなたです。ベンダー任せにせず、定期的に進捗状況を確認し、仕様の認識ずれがないかチェックしましょう。
ステップ4:テスト・データ移行フェーズ
構築されたERPシステムが、設計通り、要件通りに正しく動作するかを徹底的に検証(テスト)し、問題がないことを確認した上で、既存のシステムから必要なデータを新しいERPシステムへ移し替える(データ移行)ステップです。
▼ 具体的な作業
- 1. 各種テストの実施
個々の機能(単体テスト)、連携機能(結合テスト)、業務シナリオに沿った全体動作(総合テスト/シナリオテスト)を段階的に行います。
2. 受入テスト(UAT: User Acceptance Test)
実際にシステムを利用するエンドユーザーが、本番同様の環境で業務シナリオに基づいて操作し、要件を満たしているか、使い勝手に問題はないかなどを最終確認します。
3. データ移行準備とリハーサル
移行対象データの整理やクレンジング(誤りや重複の修正)を行います。
本番移行前にリハーサルを行い、手順や所要時間、データの正確性を確認します。
4. 本番データ移行
本番直前に、最終的なデータをERPに移行します。
▼ 中小企業が押さえるべきポイント・注意点
ー 徹底的なテスト
「動くだろう」という思い込みは禁物です。想定される様々な業務シナリオ(通常、イレギュラー)でテストを行い、本稼働後のトラブルを未然に防ぎましょう。
ユーザーテスト(UAT)には必ず現場担当者が参加することが重要です。
ー データ移行のリスク管理
データ移行は想像以上に手間がかかり、エラーやデータ不整合のリスクも伴います。綿密な計画、データクレンジング、バックアップ体制を整えましょう。「ゴミデータ」を移行しないことが重要です(Garbage In, Garbage Out)。
- ー 移行リハーサルの実施
- 本番移行をスムーズに行うために、事前にリハーサルを行うことで手順の確認や潜在的な問題点の洗い出しができます。
ステップ5:トレーニング・本稼働(Go-Live)フェーズ
新しいERPシステムを実際に利用する従業員に対して操作方法や新しい業務フローの教育(トレーニング)を行い、最終的な準備が整ったことを確認した上で、旧システムから新ERPシステムへ切り替え、実際の業務での利用を開始(本稼働)するステップです。
▼ 具体的な作業
- 1. トレーニング計画と実施
ユーザーの役割や業務に応じたトレーニング計画を立て、マニュアル等の資料を作成し、トレーニングを実施します。
2. 最終準備とGo/No-Go判断
データ移行の完了、システムの最終チェック、ユーザーの習熟度などを確認し、予定通り本稼働するかどうかの最終判断を行います。
3. 本稼働(Go-Live)
旧システムを停止し、新しいERPシステムでの業務をスタートします。
4. 稼働後サポート体制
本稼働直後の問い合わせやトラブルに対応するための社内(ヘルプデスク等)およびベンダーによるサポート体制を準備・実行します。
▼ 中小企業が押さえるべきポイント・注意点
- ー 分かりやすいトレーニングと継続的な教育
- ITに不慣れな従業員もいることを念頭に、実際の業務に即した分かりやすいトレーニングを心がけましょう。また、新入社員向けやシステムのアップデートに伴う教育も継続的に行う必要があります。
- ー 変化への抵抗への対応
- 新しいシステムや業務プロセスへの変化には、心理的な抵抗がつきものです。導入の目的やメリットを丁寧に説明し、ユーザーの不安を取り除く努力が必要です。
- ー 現場からのフィードバック収集
- 実際にシステムを利用する現場からの意見や要望(使いにくい点、改善案など)を収集し、今後の改善に繋げていく仕組みを作りましょう。
- ー 成功事例の共有
- ERPを活用して業務が改善された、効率が上がったなどの成功事例を社内で共有することで、他の利用者のモチベーション向上や活用促進に繋がります。
- ー 稼働直後の混乱を想定
- どれだけ準備しても、稼働直後は多少の混乱やトラブルは避けられません。迅速に対応できるよう、サポート体制を整え、関係者間で協力しましょう。
▼ 具体的な作業
- 1. システム運用・保守
日々の安定稼働のための監視、定期的なバックアップ、OSやミドルウェアのアップデート、トラブル発生時の対応、セキュリティ対策などを行います。
2. 問い合わせ対応・追加トレーニング
ユーザーからの問い合わせに対応したり、必要に応じて追加のトレーニングを実施したりします。
3. 効果測定
ステップ1で設定した目標(KPI)が達成されているかを定期的に測定・評価します。
4. 業務プロセス・システムの改善
効果測定の結果やユーザーからのフィードバック、業務の変化、経営戦略などに基づき、業務プロセスの見直しや、システムの機能追加・改善(バージョンアップ含む)などを計画・実施します。
▼ 中小企業が押さえるべきポイント・注意点
ー 導入して終わりではない意識
ERPは「育てる」システムです。安定稼働させ、使いこなし、効果を出し続けることが重要です。
ー ベンダーとの連携
システムの安定運用、バージョンアップ、機能改善のためには、導入後もベンダーと良好な関係を維持し、適切な連携・サポートを受けることが重要です。
ー セキュリティ対策の継続
情報は企業の重要な資産です。常に最新のセキュリティ情報を収集し、必要な対策を継続的に講じ、情報漏洩などのリスクに備えましょう。
ー PDCAサイクルの実施
効果測定の結果に基づき、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)のPDCAサイクルを回し、ERPシステムとそれを使う業務を継続的に改善していくことが、投資対効果を最大化する鍵です。
まとめ
中小企業にとって、ERP導入は業務効率化や経営高度化を実現するための大きなチャンスです。成功への道筋は、以下の主要なポイントに基づいています。
ステップ6:運用保守・改善フェーズ
ERPシステムの導入は完了ではなく、スタートです。このステップでは、稼働したシステムを日々安定して利用できるように維持管理(運用保守)し、導入効果を測定しながら、ビジネスの変化に合わせて継続的にシステムと業務を改善していく活動を行います。
1. 段階的な実行と6ステップ
導入は「導入企画・準備」から「運用保守・改善」までの6つの明確なステップを、着実にクリアしていくことが成功の鍵です。
2. 経営のコミットメント
社長をはじめとする経営層が導入の必要性を理解し、リーダーシップを発揮することが不可欠です。
3. Fit to Standard
コストと将来的な障害を避けるため、可能な限りERPの標準機能に合わせて業務プロセスを見直す「Fit to Standard」の意識が重要です。
4. 継続的な改善
ERP導入はスタートであり、導入効果を測定し、PDCAサイクルを回しながら業務とシステムを継続的に改善していく意識(システムを「育てる」意識)が必要です。
5. 三位一体の推進
経営層、現場担当者、そして信頼できるベンダーが一丸となってプロジェクトを推進することが、成功への道筋です。
maruttoは、ERP導入実績の経験を生かして、企業の現状を棚卸しし、これらのステップを丁寧に一緒に実現していくことを大切にしています。








